バスキュラーアクセスとは
慢性(末期)腎不全になると老廃物・水分などが体に溜まってしまうため、これらを体から除去する必要があります。血液透析では、患者さんと透析装置の間で血液を循環させながら、老廃物・水分などを取り除く治療を行っています。
バスキュラーアクセスとは、血液透析の際に血液を脱血したり返血したりするための出入り口を指す言葉です。幾つかの種類はありますが、自己血管内シャント、人工血管内シャント、透析用カテーテルが主なものです。
安定して血液透析を受けるためにバスキュラーアクセスは欠かせないものです。しかし時にはトラブルで使えなくなる事態も起こるため、毎日の管理や緊急時の対応が必要になります。
バスキュラーアクセスの種類
自己血管内シャント (単に「シャント」と言えばこちらを指します)
上肢の動脈と静脈をつないだ(吻合した)ものです。動脈血が直接流れ込んだ静脈は拡張して、透析時の穿刺や脱血・返血がスムーズに行えるようになります。透析患者のうち9割はこの自己血管内シャントが占めています。
人工血管内シャント (「グラフト」とも呼ばれます)
自己血管内シャントを作れる血管がない際に用いられます。
吻合可能な動脈と静脈の間まで、血管に見立てた人工チューブ(グラフト)でバイパスしたものです。
透析用カテーテル
緊急で透析が必要な際や、上述のシャントが作れない際に用いられます。頸静脈(首元)や大腿静脈(足の付け根)にある大きな血管内に直接カテーテルを埋め込むものです。
一時的(2週間前後)に使用するものや、長期使用(数年以上)が可能なものまで、さまざまな種類があります。
トラブルの種類
狭窄
内シャントの一部の血管が細くなり、血流が悪くなった状態です。血管の繋ぎ目(吻合部)や、枝分かれの近くで狭窄が出現しやすいです。シャント音が悪い、血管に張りがない(もしくは張りが強すぎる)、止血に時間がかかるいといった症状がでます。放置すると適正な透析が行えなくなり、また閉塞してシャントの使用が出来なくなることがあります。
閉塞
シャント血管内に血栓ができて、血流が途絶えた状態です。上述の狭窄のほか、血圧低下、全身状態の悪化などが誘因となります。閉塞すると透析での使用が出来なくなるため、早急な対応が必要になります。
シャント瘤
狭窄などにより血流が悪くなると、静脈内の圧力が高まって部分的に静脈が拡張する=瘤(こぶ)が出来ることがあります。ひどい場合には破裂して大量出血してしまう場合があります。
感染
留置カテーテルや人工血管など、人工物を用いたバスキュラーアクセスは感染に注意が必要です。また自己血管内シャントでも同一箇所の穿刺をし続けたり、止血後の管理が悪いと感染をきたす場合があります。バスキュラーアクセスの感染は重症化しやすいため早急な処置が必要となります。
上大静脈症候群
内シャントでは多量の血液が静脈内へ流れ込んでいます。動脈側から静脈内へ流れた血液は前腕→上腕→わき・肩と流れ、最終的に心臓まで戻っていきます。狭窄などで一部の流れが停滞した場合、上肢全体が浮腫むことがあり、これを上大静脈症候群と呼びます。
スチール症候群
本来は指先に流れるはずであった動脈血流が、シャント血管に多く流れ込んだ結果、指先への血流が悪くなった状態です。指先の冷感や痛みを生じるほか、ひどくなると壊死してしまう場合もあります。何度もシャント再建を行っている方や、動脈硬化が強い方に起こりやすい合併症です。
治療
バルーン治療(PTA)
Percutaneous Transluminal Angioplasty(経皮的血管形成術)、略して「PTA」とも呼ばれています。シャント狭窄に対して行われる治療です。先端に風船(バルーン)のついたカテーテルを狭窄部まで進め、そこで風船を拡げることによって狭窄血管を押し拡げます。なお狭窄を改善できたとしても、時間が経つと再び狭窄が出てきてしまう事が多いため、当院ではPTA後の経過フォローも実施しています。
シャント再建術
シャントが閉塞してしまった場合や、PTAでの改善が困難な狭窄に対しては、新たにシャントを造設(再建)します。血管の状態よって、自己血管内シャントあるいは人工血管内シャントを作成するかどうか判断します。
カテーテル留置術
新たにシャントを作成できる血管がない時には留置カテーテルの挿入を行います。またはシャント作成は可能であっても、手術後のシャント使用が可能になるまでの一定期間のバスキュラーアクセスとして用いられることもあります。
受診について
バスキュラーアクセスに関する診断や治療は、完全予約制で行っています。
当院に受診歴のない方は、通院透析施設を通じてご連絡を頂けますようお願いいたします。